小王との別れ~後編~
2010年 08月 09日
小王と老王のことが心配で…というのはもちろん。
しかし私は寝ればたいていの悩みは解決している、と思っているので、それだけで眠れなくなるということはまずない。
原因は南京虫アレルギーで肩や腕、顔に出た湿疹。
部屋は夜になっても暑く、痒みは増し、湿疹は収まるばかりか赤く大きく腫れてひどくなった。
さらにはお腹も壊している、全く食欲がない。
どうなるのだろう。
このまま走れるのか。
ひょっとして私こそ離脱して休んだほうがいいんじゃないか。
「美緒、とても痒いのか?」
痒いをさすっていると隣のベッドで寝ていた老王が声をかけてくれた。
「はい、眠れない」
というと、「薬と精油を持って、外へ行こう」と中庭に連れ出してくれた。
老王も寝ていなかったのか。
「小王のいびきがうるさくて。それに美緒も痒そうだし」
そう言いながら分厚く温かい手で薬を塗ってくれた。
薬のおかげで身体がスーッとし、痒みもましになった。
きっと老王が眠れなかったのはそれだけじゃない。
明日、本当に別れるのだろうか。
そんなことを心配しているといつの間にか朝になった。
6時、小王が起き出しごそごそ準備を始める。
朝になったらいつものように3人の旅がはじめられるかもしれない、ふとそう思った。
けれど重い空気のまま。
無言で用意をし、自転車とともに外に出て行った。
2軒となりの食堂でお粥とまんじゅうを食べ出発。
ちょうど太陽が昇るころ。
いつものように老王、私、小王の順番に走る。
走り始めると、老王と小王は普通に会話をしていた。
ほんとうに今日でお別れなのだろうか。
嘘だったらいいのにと思った。
昼頃、70km先の町に到着。
「私は空気入れをさがしに行くから先に休んでいて」
そういって小王は市場へ出かけた。
空気入れは老王のものが使いやすいので3人ともそれを使っていた。
でもこれからは違う。
スイカを食べて休む。
こうしてスイカ1玉をいつも3人で食べた。
それもこれで最後。
小王が戻ってきて隣に座る。
住所とメールアドレスを交換した。
淡々と別れの準備が進んでいく。
ここから私と老王は100km先の敦煌を目指す。
小王はウルムチ方面へ先を急ぎ同じく100km近く走る。
いつまでもゆっくりしてはいられない。
「行こう」
老王がいった。
赤信号で立ち止まり、老王と小王が握手をした。
続いて私。
「さようなら」
「さようなら、北京で会いましょう!」
信号が変わり、もう一度「さよなら!」と言うとそれぞれの方向に走りだした。
私の前にはいつものように老王の背中。
けれど振り返っても小王はいない。
涙が溢れた。
どんなときも私たちは一緒に走ってきた。
でも仕方がない選択だってある。
これでよかったんだ。
「私たちは互いに尊敬し合っている。でも、小王にはそれができなかったんだよ」
老王がいった。
私たちは二人になった。